舞台「都合」を観に行きました

舞台「都合」を観に行きました

しほんさんが出られていた舞台「都合」を観に行きました!

離婚調停をする家庭裁判所を舞台としたストーリーになっていて、そこに絡む登場人物たちの思いが交錯していくというお話でした。

これは毎回思いますが、舞台の使い方が面白かったです。

劇場のステージがそんなに大きくないので、その中でどうやって今何が起きているかを観客に示さないといけないわけですが、出られている人数が多いのに、ちゃんと何をしているのかが分かるというのはすごいなあと思いました。

今回の舞台では、映像的というか、複数のシーンが同じ舞台で展開していても、フォーカスを見せたいシーンに合わせさせるという演出になっていて、面白かったです。

以降、ネタバレがあるので、まだ見てないよと言う方は後で読んでいただくと良いかもしれません!

感想

お話では大きく3組の話が、同時進行的に進んでいくのですが、最初は「この話とあの話がどうつながるんだ?」という感じなんですが、それが中盤ぐらいから「ああ!」となって、終盤になってその構図が一気に収斂して、逆転していくという展開がとても印象的でした。

内容的には「人間関係は本当に難しい」ということを改めて思いました。ただ、お互いが相手に歩み寄ろうとしたときに生まれる関係はそれゆえ、とても尊いものなんだろうとも感じました。最後の方で全員が勢ぞろいしてごまかしが無くなったときにできていた各登場たちの関係は、キラキラしていました。

印象的だったセリフ

劇中で印象的だったセリフはいくつかあるのですが、1つは「人は同じものを見ているようで、見ているものは違う」というもので、これは本当にそうなんだよなあと思います。これはどうにもならないから、違うことをちゃんと理解して、そのうえでどうするかなんだろうと思いますが、これがまたなかなか難しいですよね(苦笑)

あとは「愛情はわがままなほうが伝わる」というセリフ。このセリフを言っていた家裁職員の方は重くなりがちな話に笑いをもたらしてくれる人でり、本質的なところを言ってくれるキャラクターでもあって、とっても好きなキャラクターでした。

優しさとは?

とことんパートナーに優しい男性と、それにどこか物足りなさを覚える女性の関係はどちらの言い分も分かって、いやあ、難しいわ~と思いました笑

女性のほうからすれば、ずっと男性を利用するということもできたわけですよね。なんでも肯定して、受け入れてくれるから。でも、彼女はそれを良しとしなかった。関係を清算しようとした。そこも優しさだと思いました。

一方で男性の方はどこまでも利他的で、はたから見れば明らかに優しい人です。が、彼女からすると、それは必ずしも優しさではなかったわけですね。かといって、彼女の優しさ(離婚の要求)は彼からすれば、優しさとは受け入れらないものだった。

だから、なんでもいいよと言ってきた彼は「別れたくない」という意思を表明して、衝突するに至った。

優しさがすれ違って、ぶつかってしまうという切なさを感じました。

どこかでお互いが「どうしてほしいのか?」を話し合うことができていれば、事はこうはならなかったのかもしれないけど、そのときに本音を話せたかというと、それもどうなのかなあという気もして、本当人間ってめんどくせえ生き物だなと。

最初からメインになる不倫原因の離婚夫婦でも、優しさがすれ違っていくわけですよね。しかも、こちらの場合は子供と不倫相手という第三者が介在していることで、より複雑なすれ違いになってしまっています。

不倫をした男性が、家族のことを思っていたことに嘘はないのでしょうけど、でもそれが上手く伝わっていませんでした。

女性のほうは子供にはとても目をかけるけど、パートナーにはそれと反比例するように冷たくあしらっている。

子供はだから、母親を評価して、父親を蔑視する。

そして、不倫相手は身ごもったことで、女性(妻)のほうに気持ちを寄せていく。

お互いが、お互いを見ていない。

それぞれがそれぞれに優しさを持っているけれど、その方向と方法がことごとく食い違っていく。

判事はパートナー(実は失踪した配偶者がいる)との間の関係が、中途半端になっていることに悩んでいる。

彼もまたとても優しいけれども、どこか負い目があって、パートナーがどうしてほしいのかに上手く目線を合わせられていない。

よく「正義は人それぞれ」なんて言いますが、私はこれは違うと思っています。

「正義」というのは、そんなにバリエーションがあるもんではありません。ほとんどの人が同じものを想像できるものだと思います。

問題は「優しさ」なのです。

人間がなぜ戦争をするのか。その根本にあるのは、他者への共感力です。わたしとあなたという強い共感関係があるから、「あなた」が受けた被害を自分のものだと「誤認」して、争いに参加していってしまう。

つまり、「優しい人」が一番残酷になりうるのです。

「これが優しさ」だと思っていることが、相手の求めていることと食い違っていると、どこかでその関係は限界を迎えてしまう。それは「優しさ」には暴力性がひそんでいるからです。

だからこそ、優しさは慎重に扱わなくてはいけない。

優しさを暴走させてはいけない。

相手のことをちゃんと見て、相手が求める必要な優しさを無理せずに与えていく。

そして、私は私だし、あなたはあなたなんだと、ちゃんといい意味で線を引く。だからこそ、面倒なのに関係を結んでくれていることに、謙虚な気持ちになれるかもしれない。最後の方の「ごめん」と「ありがとう」にはそういう意味があるんじゃないかと感じました。

とりあえず、「優しさ」に悩んでいる人に見てほしい作品でした。

私も「優しい」と言われるタイプだけど(自分では全然そう思っていないんですが)、「優しい」って難しいよねと思っていたので、そうか~と思ったところがいくつもありました。

お話としては、少し重たい、難しいものを突きつけられる作品だけれど、私が「優しさ」を考えたように、たくさんの考えるきっかけを与えてくれる作品でもあって、観て良かったです!