私は日常の色々なものから、「創造」ができると思っていますが、好きなものの1つが「選挙分析」です。私の大学時代の卒業論文が「義務投票制度がなぜ投票率を上げるのか」だったぐらいには。
今回は直近であった八王子市長選について見てみたいと思います。
目次
与党は支持されていたのか?
昨今、裏金問題などで内閣支持率や自民党の支持率が大きく下がっています。
そういう中で、今回の八王子市長選では与党系が推薦した候補が勝利するという結果になりました。これをもって、与党は支持されていると考えるべきでしょうか。
結論から言えば、私はそのようには解釈していません。
前回、つまり2020年の八王子市長選での与党系候補の絶対得票率は16.8%です。
今回の市長選での与党系候補の絶対得票率は13.6%にとどまっています。
ここから、与党系候補の絶対得票率は低下しており、与党が支持されたとは言えないと考えられます。やはり与党には逆風が吹いていたということです。
野党は支持されなかったのか?
逆に野党系候補についても見てみましょう。
前回の市長選での野党系候補の絶対得票率は10.2%です。
今回の市長選での野党系候補の絶対得票率は12.2%です。
比較すると伸びていますので、ある程度野党系候補へ票が流れており、野党への支持も一定程度伸びていることがうかがえます。
しかし、結果として野党系候補は与党系候補を上回れませんでした。
考えられている要因は、SNSなどを見ていると2つあるようです。それぞれについて、考えてみましょう。
逆風を活かせなかった理由
1:都民ファーストの存在?
東京に特殊な事情として、「都民ファーストの会」の存在があります。
政治的な立ち位置としては、保守改革系といったところでしょうか。国政では維新の会とポジションが基本的にかぶっています。つまり、保守ではあるけれど、既得権益を打破したい(厳密には付け替えたい)という感じです。政治学的には「右派ポピュリズム」とも言えるかもしれません。
八王子での主要保守勢力は自民、維新、都ファの3党で分けあいになっていると思われます。
最近の選挙での3党の絶対得票率の合計を見てみると、
2021都議選 21.0%(自民+維新+都ファ)
2021衆院選 21.6%(自民+維新)
2022参院選 22.3%(自民+維新)
となっており、21~22%程度でほぼ固定的です。
そして、都議選の絶対得票率は、
自民 10.5%(参16.0% 衆16.5%)
維新 1.7%(参6.3% 衆5.1%)
都ファ 8.8%
のようになっていて、都ファは地方選において自民、維新の票を食っていると見ることが可能です。逆に言えば、この3党の間で揺れ動く人が多く、協力することも可能ということです。
今回、都民ファーストの会の事実上のトップである小池都知事は与党系候補の応援に入っています。新聞の取材では、小池都知事の応援が入ってから風向きが変わったそうです。(新聞記事)ここから、与党系候補に都ファ支持層の票がある程度のったと考えられます。
しかし、いくら小池都知事が応援したからといって、都ファ支持層が全部のるわけではありません。都ファ支持層でも自民には入れたくないという人も少なくないと思われるためです。
ところで、今回の選挙で無所属で立候補した両角候補は、もともと都民ファーストの会の議員でした。
両角候補は完全無所属でしたので、保守だけど与党系候補に入れたくない都ファ支持層の受け皿になりえる存在でした。
ここから、両角候補が出馬したことで、反自民票が野党系候補(滝田候補)と割れてしまい、結果的に与党系候補が当選したという理屈を考えることができます。つまり、両角候補が出馬しなければ、その分が反自民で野党系候補にのったのではないかということです。
しかし、私はこれにはあまり同意できません。
というのも、両角候補は絶対得票率にして9.6%の得票を得ています。当選した初宿候補の絶対得票率が13.6%なので、合わせると23.2%で、面白いことにいつもの保守票とだいたい同じ勢力になるのです。この固定保守層と思われる有権者が、野党系候補にそうたくさん票を投じるようには思えません。
もし両角候補が出馬していなければ、渋々与党系候補に入れたか、棄権したと考える方が自然ではないでしょうか。
2:野党の選挙運動が上手くなかった?
私は八王子市民ではないので、実際のところはよく分かりませんが、滝田候補のSNSのアカウントを見ると、野党の党首級の人が応援に来たという感じはありません。もしかしたら、来ていたのかもしれませんが、調べてもあまり出てこないのは事実です。
事前の世論調査では滝田候補がリードしているという報道があり、昨今の政治情勢もありましたので、陣営側が油断したのではないかという気もします。
運動量が不足していたり、選挙を盛り上げる要素に欠け、野党系候補に入れてみようという機運を作り出せなかったという可能性もあるのではないでしょうか。都ファ云々より、こちらのほうが可能性が高そうです。いつも野党に入れる人や、基本的にアンチ与党寄りな人が、いつも通り入れたというだけに終わったのではないでしょうか。この政治情勢でそれがちょっと増えたという感じですかね。
自民党にお灸を据えたいという願望は有権者にあると思いますが、それが『自動的に』いわゆるリベラル系の得票につながるということはありません。むしろ、その願望は何もしなければ「保守改革系」への票になりやすいです。
そこを『自動的に』入ってくると甘く見たことが、野党系候補陣営の敗因のように私には見えます。
3:つまりどういうこと?
つまり、
- 保守のうち、自民でもいいかなという自民、維新、都ファ支持グループは与党系候補
- 公明支持グループは与党系候補
- 保守のうち、自民に怒っているというグループは両角候補
- リベラルは野党系候補
- 熱心ではないけど何となくリベラルは野党系候補
という図式だったのではないかということです。
野党系候補陣営は最後のグループに働きかけなくてはいけませんでしたが、ここが足りなかったのではないかというのが私の仮説です。熱心ではないグループに投票してもらうには、運動量が必要ですからね。
棄権者=潜在的な野党支持者論は疑問
あと選挙分析でよく聞かれるのが、棄権者は潜在的な野党支持者であるという風潮です。
しかし、これはまったく根拠がありません。
確かに2009年の政権交代選挙では、投票率が大きく上昇して、民主党が大勝しました。しかし、その前の小泉首相時代の郵政解散選挙でも大きく投票率は上昇し、自民党が大勝しています。
あるいは、都議選でも、2017年の都民ファーストの会が初めて候補を立てた選挙では都知事選の勢いもあり、都民ファーストの会が第1党に躍り出ましたが、このときも投票率は大きく上がっています。
つまり、平時に棄権している有権者が投票に行こうと思ったときに、リベラルに投票するなんて必ずしも言えないということです。むしろ逆に作用していることのほうが多いくらいではないでしょうか。
そして、それは野党の問題というよりは、日本の有権者の平均像がリベラルを支持する可能性を持つ要素をあまり持っていないことに起因していると私は思います。
この話は長くなるので論じませんが、これは通俗道徳(自己責任論)や権威主義(偉い、強い人の言うことにはとりあえず従う)がこの社会での標準的な価値観になっていることに原因があると思われます。通俗道徳や権威主義といった価値観を守ってくれるのが保守系と言われる政党であり、それを崩そうとするがリベラル系政党ですから、当然保守系政党の方に自然と親しみを持つのではないでしょうか。
結果、大きなパイを持つ保守というコップの中で、自民や維新、都ファ、あるいは国民民主、棄権層が票を分け合っているというのが実情で、その分け方によって結果が変わるというのが最近の選挙の在り方のように見えます。
1つの選挙から見える社会の姿
こんな感じで、数字を眺めたり、あれこれすることによって、社会の姿がどうなっているのかを予測することができます。
もちろん、今回の分析は少ない情報から組み立てたものなので、間違っている可能性も全然あります。
でも、こういう少ない情報から、より一般的なものを導くというのも、立派な「創造」だと私は思います。
仮説を立ててみるというのは、すごくエキサイティングだと思うんですよ!
私自身は政治的なことは大切だと思っていて、よく見ているからこういうのを考えるわけですが、別に政治的なことじゃなくても、色々なもので仮説を立てながら生活することはできます。
そういうのが習慣になると、ちょっと生活が楽しくなるし、論理的思考のトレーニングもなるしで良いと思うんですよね。
というわけで、皆さんもぜひなんでもいいので、「仮説」を立ててみてください。